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音響効果の世界

  • #Case study

本日のテーマは音響効果(効果音)についてです。CMを見ていても注意を向けることの少ない効果音。

効果音とは、映画・演劇・テレビドラマ・ラジオドラマ・アニメ・ゲーム、様々なメディアにおいて、演出の一環として付け加えられる音のことです。
効果音の魅力についてお伝えする前に、まずは以下のCMを音のみで聴いてみてください。
このCMに出てくる登場人物を想像しながら聴いてみましょう。



では実際に映像と一緒に、もう一度見てみましょう。
このANAのCMには中年の夫婦と娘の三人が登場人物として描かれています。
しかし画面上には夫婦の会話のみが描かれ、娘さんは画面上には登場しません。
みなさんが想像した娘さんはどんなイメージでしたでしょうか?

このCMのポイントは、
娘さんの存在はあくまでも効果音のみで描かれている点です。
効果音のみの表現によって、イメージを膨らませる楽しさ、
見る人の原体験や記憶と重ね合わせながら見せることでより一層深い表現が可能となります。
演出家の手腕と引き算の美学があるように思います。説明的ではなく、感覚や記憶に訴えかけてくるそんな魅力がこのCMにはあるように思います。

では、ここから参考映像をご紹介しながら効果音の役割を紐解いていきたいと思います。

①Dirt Devil (海外家電メーカー)

内容:
有名映画「エクソシスト」風につくられたCMです。
冒頭から怪しげな館が現れ、怪訝な顔の神父さんと、依頼主と思われる女性が現れます。
扉を開けると、そこにはなげき苦しむ女性の姿があります。
状況が進んでいくと、最後に衝撃の事実が明らかになります。

 

 


秀逸なストーリー構成に着目しがちですが、効果音にも着目してみると面白いです。
冒頭から不吉さを感じる「嵐を予感させる雷音」「床やドアの軋む音」、またホラー映画ではお決まりの「不気味な不協和音」によって怖さを煽っています。まさに効果音ありきのシーンと言ってもいいのではないでしょうか。
ホラー映画も無音の状態で見れば案外怖くないものかもしれません。

 


このように効果音には状況を説明するような役割、登場人物の心情を表現、そして見る人の感情を誘導していくような役割があります。
映像最後もに効果音によって二段オチをつくっています。
物が落ちる効果音によって、視聴者は登場人物の女性が天井から落ちたことを想像できて笑えます。
効果音の特性を生かした上手い演出だと思います。

 

②おーいお茶 (伊藤園)

内容:
みなさんお馴染み、「おーいお茶」の2003年のCMです。
なんて事のないシンプルなCMなんですが、効果音によって情緒的・詩的に表現されています。
以下URLからご覧ください。

「雪」篇
https://youtu.be/VwTiWONyyC8

「川をわたる風」篇
https://youtu.be/eyjw1roPGO8

 


このCMの効果音に着目してみましょう。
雪篇は、冬風が聞こえる中、遠くの方で教会の鐘の音が鳴り響いています。
女性がお茶を飲む瞬間、周りの環境音は鳴り止み、静寂と共に女性の息遣いだけが聞こえます。

 



鐘の効果音によって静寂はより静寂に、印象的かつドラマチックに演出されています。
どきっとしたり、目まぐるしく思考を巡らすとき、周りの音が聞こえなくなる瞬間をみなさんも経験したことがあるのではないでしょうか?
現実世界では全くの無音状態になることはありませんが、人間の感覚に近い表現に寄せることで、見せたいものや伝えたいものにフォーカスさせることが可能となります。

③23時の佐賀飯アニメ 完全版 (佐賀県PR)

④あさげ(永谷園)

 

23時の佐賀飯アニメ、あさげのCMはいつ見てもお腹が空きますよね。
効果音によってシズル感(消費者の感覚を刺激して食欲や購買意欲を喚起する手法)がより一層強調されます。
皆さんは音無の映像 or 映像なしの音のみ、どちらがお腹が空きますか?

⑤Cinematic Car Commercial(BMW)

 

エンジン・タイヤの性能が音のシズルによって表現されています。
映像内では効果音制作のプロセスが垣間見れます。何層もの「音のレイヤー」によって効果音が形成されていることがわかります。

まとめ

効果音の役割についておさらいすると、

・環境、状態を説明する役割

・イメージを誘導するための役割

・登場人物の心情を表現、または見ている人の感情を誘導する役割

・見せたいものにフォーカスさせる、印象的に見せる役割

・よりいっそう美味しそうに、よりカッコよく。シズル感を強調・助長する役割

 

今回紹介した役割はほんの一部に過ぎませんが、映像をより豊かでリアルなものに生まれ変わらせ、見えないものを描くことで、より深いイメージへと見るものを運んでくれます。

昨今はWEB媒体の出現によって広告制作総予算の縮小もあり、効果音にお金を描けるような機会が減ってきているように思われます。

また、マーケティング戦略的な意味からも、メロディーや有名アーティストの楽曲に頼るようなCMが増えています。

そしてCMに限らず、日常生活でも周りの環境音に耳を傾ける機会が減ってきているように感じます。

 

皆さんも通勤通学時のイヤホンを外して、周りに存在する「音」に耳を傾けてみると面白い発見があるかもしれません。

Planner / Marketer

TAKEI Shota

武井 祥太

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